出来ないことではなく
できることを
~十八歳からの十年介護~

REPORT

シニアの皆様に贈る特別講演会&
セミナーを開催しました

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2022年7月11日、介護と高齢者住宅について知る特別講演会&セミナーを開催しました。
(於:東京国際フォーラム、主催:東急イーライフデザイン)。
18歳のときから、10年間の介護に直面したフリーアナウンサーの町亞聖さんが、
家族の運命を大きく変える体験から学んだことを語られました。

介護は「発想の転換」

 町亞聖さんが18歳のとき、母親がくも膜下出血で突然倒れ、右半身麻痺と言語障害の後遺症が残りました。それから10年、町さんが弟妹の母親代わりとなって、ほとんどの家事と母親のサポートを担いました。町さんのように大人が担うような責任を引き受け、家事や家族の世話、介護などを行っているこどもは、今、「ヤングケアラー」として注目され、支援の必要性が叫ばれています。しかし、当時は情報もほとんどなく、町さんは突然始まった介護を手探りで続けていました。

 「当時は介護保険もなく、誰かに物理的負担をお任せすることができませんでした。精神的に『どうして自分だけが』という思いにとらわれてしまっていたので、『できないことではなく、できることを数えよう』と思いました。言葉にすると簡単に見えますが、もし大切な人が認知症や麻痺などの障害を負ったら必ず出来ないことに目が行くと思います。でも認知症だから、障害者だから、この人は何もできないと思うのは周囲の思い込みです。そう決めつけることが、本人のできる可能性を奪うことになってしまいます。できないことを受け止めた上で、自分でできることを見つけながら、介護をする側が早く発想の転換をしていくことが大事だと思います」(町さん)

町さんが講演をしている様子

 また、町さんは「弱音や本音が吐き出せる場所・人、おかれた環境をプラスにする考え方、将来を描けるような選択肢などヤングケアラーに必要な支援は、子どもや若者のみならず、介護を担う全ての人に必要な支援」とも話します。「介護は大切な家族がいなくなる形で終わりが来るのですが、残された介護者はその先も歩んでいかなければなりません。無理せず、誰かの手もどんどん借りながら自分の人生を大切にできるよう、上手に介護をしてほしいと思います」(町さん)

 町さんの場合は、この経験があったからこそ多くの気づきと感謝を得て、父親との確執や苦しい経済事情に苦労していた時期のことも、今はポジティブに振り返ることが出来ているそうです。「人生に無駄なことはなく、介護のおかげで濃密な10年間をすごせて、様々な方との新たなご縁も広がっていきました」(町さん)

子宮頸がんを患った母親を
自宅で看取る

町さんが講演をしている様子

 続いて町さんは、母を看取った経験にも触れました。母が48歳のとき、末期の子宮頸がんが見つかったのです。「在宅で看取る」という選択をした町さんですが、それには現実を受け入れるという覚悟と決断が必要でした。当時、先進的だった緩和治療科のある病院に相談し、訪問看護による点滴交換、カテーテル交換などの医療的なサポートを受けながら、自宅でケアを続けました。

 「母は最期まで穏やかでした。在宅を選んだおかげで、最期の外出となる弟のピアノ発表会に出かけることもでき、家族で号泣しました。その1週間後、私と父と妹と叔母に見守られて母は静かに息を引き取りました。支えてくれる専門職がいたからこそ、私たち家族は母が息を引き取る日までそれぞれの役割を果たすことができ、当たり前の日常を送りながら側にいて見守ることができたような気がします。

 看取りはそのときだけではなく、命の限りが分かった時から始まっています。最期のときにどうしたいかを予め話し合っておく『人生会議』が必要とも言われていますが、それは医療をするかしないかを話し合うことではなく、最後に食べたいものや、感謝の気持ちを伝えたい人など、やり残したことがないように、どう最後まで生きたいのかを話し合うことなのです。もちろん、過ごす場所は在宅以外の選択肢もあります。介護施設や高齢者在宅のような集団生活の場では介護のプロがサポートし、友人もいますから、大きな選択肢の一つになると思います」(町さん)

 介護や看取りは人ごとではありません。先のわからないことに誰しも戸惑いや不安を感じるのは当然です。しかし、最後までどのように自分らしく生きたいのかを考えておくことで戸惑いを少なくすることは出来そうです。

「全てのことには時がある」
という言葉を胸に

 「介護、がん、在宅での看取り、経済的貧困、ヤングケアラーなど、今、社会問題となっているもののすべてを30年前に先取りしていた人生だったと思います」と振り返る町さんは、現在自らの経験を糧に、医療や介護について伝えていく活動をしておられます。

 「私の好きな小説の中の言葉に『全てのことには時がある』という言葉があります。母は『感謝だわ…』が口癖でした。これらの言葉を胸に、これからも生きていきます」と、力強く語る町さん。話に引き込まれ、うなずきながら真剣に耳を傾けている会場の参加者にも、その思いは伝わっているようでした。

 「もし介護が必要になったら」「将来どこでどのように過ごすか」、答えは一人ひとり違い、すぐに出るものではありませんが、予め考え、準備することで見えてくることもあるでしょう。まずはこのようなセミナーに足を運んで情報を集め、疑問や悩みを相談してみることから始めてみませんか。

町さんが講演をしている様子