認知症とともに...私らしくを、いつまでも。
Hiroshi Hasegawa
長谷川 洋
長谷川診療所
院長
長谷川診療所(川崎市)院長。1970年生まれ。
聖マリアンナ医科大学卒。
同大学東横病院精神科主任医長などを経て開業。
日本精神神経学会専門医。00年、日本生物学的精神医学会国際学会発表奨励賞受賞。
- 記事掲載時の情報です。
2020年7月オープンした高齢者住宅「グランクレール芝浦」で、クレールライフ講座「認知症とともに...私らしくを、いつまでも。」(主催・東急イーライフデザイン、後援・認知症予防財団、毎日新聞社)の講師として、7月19日に長谷川洋先生の講演が開催されました。
認知症専門医の第一人者で、自らが認知症になったことを公表した長谷川和夫・認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長のご長男です。
医師であり認知症の方の家族でもある洋氏にインタビューした内容をご案内いたします。
支える周囲が病状を理解し、本人を尊重していく
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うつと認知症の関係を
教えてください。ご高齢の方の場合、退職して経済的なストレスが生じますし、身内やご友人を失うというストレスが起こり得ます。加齢に伴い、身体の心配事などもきっかけとなりうつ症状を生じることもあります。またうつ病は、気持ちの落ち込みは目立たずに頭が重い、食欲不振など身体面の症状として現れることも多いため、内科など身体の診療科を受診する方も多く、治療開始が遅れることがあります。
うつ病では集中力の低下からもの忘れを自覚される方も多く、ご本人も「認知症が始まったのでは」と心配されることもあります。またレビー小体型認知症の場合には初期はうつ症状で、もの忘れは目立たず、うつ病との鑑別が難しいことがあります。
またうつ病の方で数年の経過で認知症を発病されるという報告もあり、うつ病は認知症の危険因子と言われています。一方で認知症の方の中には、物忘れを自覚され生活面での失敗からうつ症状を併発することもあります。うつ病と認知症は全く違う病気ですが、見極めは難しいことがあります。※イメージ
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精神科への受診は
ハードルが高い面があります。ご高齢の方の場合、退職して経済的なストレスが生じますし、身内やご友人を失うというストレスが起こり得ます。加齢に伴い、身体の心配事などもきっかけとなりうつ症状を生じることもあります。
また、うつ病は、気持ちの落ち込みは目立たずに頭が重い、食欲不振など身体面の症状として現れることも多いため、内科など身体の診療科を受診する方も多く、治療開始が遅れることがあります。
うつ病では集中力の低下からもの忘れを自覚される方も多く、ご本人も「認知症が始まったのでは」と心配されることもあります。またレビー小体型認知症の場合には初期はうつ症状で、もの忘れは目立たず、うつ病との鑑別が難しいことがあります。
また、うつ病の方で数年の経過で認知症を発病されるという報告もあり、うつ病は認知症の危険因子と言われています。一方で認知症の方の中には、物忘れを自覚され生活面での失敗からうつ症状を併発することもあります。うつ病と認知症は全く違う病気ですが、見極めは難しいことがあります。 -
診察を拒否する方の家族は
どう対応すればいいですか。大きな病気が隠れていたら心配だし、私の安心のために受診してとお伝えする、ご夫婦なら「認知症って早く発見するといいと聞いたけど、一人では心細いから一緒に検査を受けてくれない?」とお誘いするとか。ご本人と相性のいい方、例えばお孫さんから勧めていただくこともいいかもしれません。「せっかく税金払っているのだから」と自治体の精神保健相談に誘う方法もあります。そこでお話した医師とつながりができ、継続した受診につながることもあると思います。高齢のご夫婦ならどちらかが訪問診療を受け、なじみの関係になってから診療の相談をするのもいいかもしれません。
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家族の介護ストレスを
訴える声が絶えません。ご家族とプロの介護は違います。プロは勤務時間も決まっていて休みもありますから完璧を目指すべきだと思いますが、家族は介護が日常です。24時間365日、自分の時間を提供し続けるのは疲労、ストレスになります。ストレスがたまればイライラしてイヤな言い方をしてしまう、また身内だからこそ強く言ってしまうこともあるでしょう。長年ご家族が築きあげた家族間の穏やかな関係が、介護をきっかけに失われてしまうのなら残念です。介護サービスの利用によってゆとりができれば、家族にしかできないことをご家族も一緒に愉しむことができたら素晴らしいと思います。昔の家族写真を見て旅行の思い出話をしたり、ご本人の好物のお店のケーキを買ってきて一緒に食べたり、といったことですね。父は私の診療所で認知症の方の診察をしていましたが、一緒に歌を歌い、笑い声が聞こえてくることもありました。
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政府の認知症大綱は
「共生と予防」を打ち出しています。予防に関する情報が多く出てきたことはいいと思います。ただ、加齢に伴って認知症の方が増えることを考えると、長生きできた方が認知症になれる、とも言えます。父を見ていても、認知症になって物忘れはありますが、もともとの性格は変わっていません。その時に思ったことを口にするのは昔からです。
以前、ある先生から「長谷川教授は大変厳しくて夏休みも2日過ぎると『もう出てきてもいいぞ』と言われたりね」と教えていただきました。今の時代ならパワハラですが。認知症の方に特別な対応はなく、ご本人を支える周囲の方が認知症の症状を理解し、ご本人を尊重していくことが大切です。認知症の方が住みやすい社会は、どなたにとっても住みやすい社会になると思います。 -
患者さんには
どのように対応されていますか。認知症に限らず精神の病は、数値で検査結果が出る身体の病気と違い、実態をつかみにくい面があります。診断だけ告げられると、明確でないものに直面して患者さんが不安になったり、目を背けようとしてしまったりするように思います。ご本人の困っていること、ご家族が心配されていることをお聞きし、一緒に考えることを継続する中で診断をお伝えしますが、診断は確定ではないこと、経過を見ていく必要があることもお伝えします。外来診療ではご本人が嫌がる治療をしても、いい結果につながりません。人間は感情が伝わる動物と思います。診察で私が急いていると患者さんもこちらの思いを読んで診察への不満が高まってしまうという経験は何度もしています。父は認知症の方の診察について「待つことだ」と言っていました。高齢の方はよく遠慮し、「お変わりないですか」との問いに、「変わりないです」と答えます。医師は「変わりなくいい」と解釈し、すぐに診察を終えることもあるでしょう。でも、本当の患者さんの思いは「変わりなくしんどい」なのかもしれません。時間を提供することの大切さを心がけて診察させていただきたいと思っています。