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島田 広美

TOPINTERVIEW 島田 広美

島田 広美Hiromi Shimada

順天堂大学大学院
医療看護学研究科
先任准教授

2009年千葉大学大学院看護学研究科修了、博士(看護学)、順天堂大学医療看護学部講師。2011年、同准教授。2016年より現職。
高齢者看護、リハビリテーション看護、施設看護、ヘルスリテラシーなどを主な研究分野とする。

高齢になると転びやすくなり、転倒による骨折や外傷などの
大きなケガが原因となって介護が必要になることも。
危険な転倒を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
順天堂大学大学院医療看護学研究科先任准教授の島田広美先生にお話をお聞きしました。

高齢者にとっての
転倒の危険性を正しく理解し、
対策・行動をとっていく
ことが大切です

1高齢者にとって転倒の危険性とは

「私らしくを、いつまでも。」は高齢者の思いをよく表した言葉だと思いますが、これを阻害する要因の一つが「転倒」です。転倒してしまうと、やりたいことを叶えながら、自分らしく生活していくことが難しくなってしまいます。

健康な方にとってはそれほど転倒の重要度は高くないと思われるかもしれませんが、国の人口動態統計を見ても、交通事故より転倒・転落・墜落で亡くなる方のほうが実は多いのです(4ページグラフ)。介護が必要になる要因としても、いちばん多いのは認知症ですが、次いで脳血管障害、高齢による衰弱、4番目に多いのが骨折・転倒です。

特に高齢者の場合、運動機能が低下して、つまずく、あるいはバランスが取れなくなって転んでしまうという経験が増えていきます。
この運動機能の低下 をもたらしているのは、老化だけではなく、高齢者に多い脳神経疾患や眼の病気、骨・関節の障害がある場合や、高血圧症・糖尿病などで5種類以上の薬を服用している場合も転倒のリスクが高くなります。骨粗しょう症で骨が弱くなるというリスクも重なるため、ちょっとした転倒が骨折などの大きな外傷につながり、今までの生活ができなくなるきっかけとなるのです。

たとえ骨折や外傷が起こらない場合でも、転倒を経験するとご自身が歩くことに自信が持てなくなったり、周りの方が「危ないからおとなしくしておく方がいい」と活動を制限してしまいがちです。すると、動かないことによる廃用性の変化でさらに筋力が低下していき、動けたはずが今度は動けなくなり、さらに転びやすくなって転倒を繰り返すという悪循環に陥ります。こうした悪循環を防ぐには、元気なうちから「転びにくい体づくり」、転んでも「骨折しにくい体づくり」をしていくことが重要です。

65歳以上の不慮の事故による死因別死亡数

65歳以上の不慮の事故による死因別死亡数

2転倒リスクが高い場所は?

高齢者は屋外より屋内、ご自宅で転倒するケースも多いです。毎日生活している場所では意識せずに歩いています。急いでいるときやちょっとした体調不良のとき、足が上がっていないことに気づかず、普段はまたげていた段差につまずいて転んでしまうといったケースが意外と多いです。

もう一つ、「転びやすい環境」というものもあります。台所の濡れた床で足を滑らせたり、電気コードに足を引っかけたり、床に置いていた雑誌や新聞の上で足を滑らせたりと、生活動線の中に物が溢れることによって転びやすくなることもあります。段差や障害物など、転びやすいところはないか、夜間のトイレまでの動線が暗ければ明るく照らすようにするなど、身の回りを改めて点検し、転びにくい環境を作っていくのも大切なことです。過度に制限しすぎず、かつ安全に過ごせる環境をどう作っていくかが重要だと思います。

身の回りのこんなところに転倒リスクが

身の回りのこんなところに転倒リスクが

3自分で気づき、対策・行動を

 まずはご自身で生活している環境や自分の体の状態に意識を向けてみましょう。はじめに「転びやすい環境」がないか確認し、床に物は置かないようにしましょう。濡れている場所や段差・階段があるところは転びやすいので、特に気を付けましょう。

次に「転びにくい体づくり」です。年齢を重ねると気付かないうちに徐々に体が衰えていきます。最近、「つまずくことがある」「歩くスピードが遅くなった」という自覚があれば、運動機能が低下し、転倒のリスクが高くなっているのかもしれません。日常生活の中でこまめに体を動かす、外に出て人と交流する、活動の機会を作るなど、行動を習慣化していきましょう。また、体を動かす筋肉や骨を維持するために栄養バランスの取れた食事をとりましょう。

ただし、体にいいとわかっていても行動を継続することは難しいことです。まずはご自身が「どんな生活や目標を達成したいのか」を明確にし、望む生活を続けるために体をどうメンテナンスしていくのかを考えることが大切です。

4体に関心をもちやり続けることが大切

万が一転んでしまっても、その人が悪いわけではありません。転倒を気づきとして、繰り返さないようにするためにどう対策したらいいかを周囲の方も一緒に考え、サポートしていきましょう。老化は徐々に進んでいくものですが、変化の程度は幅があるので、運動などはやり続けることが重要ですし、歩くことが難しくなっても歩行器や補助具を使うなど、必要なサポートを得ながら、その人らしい生活を送ることはできると思っています。そのためにも、何歳でも自分自身の体に関心を持ち続けることが大切です。そして、溢れる多様な健康情報の中から、自分に必要な情報を取捨選択していける力(ヘルスリテラシー)も重要になります。

日頃から地域のコミュニティに参加して交流を多く持つなど活動的な生活を送ることが、信頼できる相談先や情報源を持つことにもつながります。ご家族、専門職を含めてサポートをうまく活用しながら、自分らしく過ごしていただけたらと思います。

体の機能低下を知るポイント

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