グランクレール

各種お申し込み・お問い合わせ

MENU

佐藤 信紘

TOPINTERVIEW 佐藤 信紘

佐藤 信紘Nobuhiro Sato

学校法人順天堂理事
順天堂大学名誉教授・特任教授

1965年大阪大学医学部卒業。1990年順天堂大学医学部消化器内科学主任教授。2004年同大付属順天堂練馬病院院長。2006年同大名誉教授・学校法人順天堂理事。専門分野は人体の生命機能、消化器内科学、統合医学など。西洋医学と東洋医学の融合など幅広い視点で未来を見据えた医療の立場から「幸福寿命社会」の実現に向けて尽力している。近著に順天堂大学と東急不動産の連携による寄付講座「ジェロントロジー:医学・健康学応用講座」で取りまとめた著書「ハッピーエイジング」(毎日新聞出版、2020年秋、出版予定)など。

人類が経験したことのない、新たなウイルスの登場により、私たちは新しい暮らし方を求められています。
これまで培ってきた大切なものを守りながら、どのように共生していけばよいのでしょうか。
withコロナ時代を生き抜く新しいライフスタイルのヒントをお届けします。

心が喜び、
互いに助け合う世界を次世代へ

1生物は仲間を作り共に進化してきた

生命体の起源は、たった一個の細胞から始まっています。地球ができ生命体が誕生する以前には、宇宙で分子が飛び交っていて、分子が自己複製しようとするシステムが進化することで、多様で複雑な生物が作られていったと想像されています。つまり、自己増殖して滅びないように子孫を残すということが生物の原点です。生物の始まりである単細胞生物がクラスター(集団)を作り、互いに連絡を取り合うことによって様々な機能を発揮できるようになり、多細胞生物が誕生しました。このとき、自己と他者を区別するために膜(細胞膜)を作り、様々な物質を取り込んで機能を果たし、役に立つ機能だけが残されていくという進化を遂げてきました。さらに、自己増殖して仲間が増えると、それが別の個体になる場合もあります。同じ多細胞生物でも様々な動物や人へ進化し、そこに家族が生まれ、社会というネットワークが生まれてきます。

こうした進化の過程の中で、マンモスや恐竜が栄えた時代もありながら滅びてしまったように、外敵が侵入してきては社会を脅かすということも繰り返されてきました。未知のウイルスも、そうした外敵の一つかもしれませんが、生物はウイルスを時には排除し、時には共生しながらウイルスと共に進化してきました。

今なお、人は仲間を作り、ネットワークを作り、外敵を抑え込んで新しい世界に入っていくという、進化の途上にあります。新型コロナウイルス感染症がもたらした世界は、明らかにそのことを示していると言えるでしょう。

2ウイルスが侵入しても病気を発症させないこともある

新型のコロナウイルス感染症(COVID-19)は、人類が経験したことのないものでしたから、最初は恐れられましたが、少しずつ色々なことがわかってきました。コロナウイルス自体は従来から風邪のウイルスとして知られてきたRNAウイルスですが、新型ウイルスはスパイクと呼ばれるトゲが人の受容体に結合して、体に入り込みます。感染したかどうかは、ウイルスの遺伝子を検索するPCR検査でわかります。しかし、PCR検査で陽性ということは「ウイルスが鼻や口にやってきている」というだけで、病気になるかどうかは別です。鼻や口から入ってきても、体の防御システムを越えて増殖しなければ、病気は発症させないことになります。陽性でも無症状という場合があるのはそのためです。

ウイルスのスパイクが、体内の受容体と呼ばれるタンパク質とくっつくことで感染が起こりますが、COVID-19のターゲットになるのは、血圧を上げ下げするのに関係する受容体で、全身のあらゆる血管や臓器に存在します。特に血圧が高い人や持病のある人、タバコを吸っている人などはもともとダメージを受けているため、重症化や死亡リスクが高いと言われています。

3免疫力を保つ生活は食・運動・心がベース

こうして体に侵入してきたCOVID-19に対して、あるいは将来的にさらに未知のウイルスが発生したとしても、体を守る最後の砦は「免疫」になります。免疫とは、体内に侵入してきたウイルスや細菌などの病原体を認識して排除する生体防御システムです。「これは自分の仲間じゃない、これは仲間だ」と見分けて、異物だと判断すると、それを追い出そうと闘うことで炎症反応が起きます。

この免疫反応を担う免疫細胞は全身に存在しますが、中でも腸に多く存在します。また、腸には腸内細菌というもう一つの仲間が共生していて、数百種類、40兆個を超す腸内細菌が免疫にも重要な役割を果たしています。例えば、ビフィズス菌が作る酢酸が減ると免疫力が落ち、さらに、脳が活性化されなくなるということなどがわかっています。「ハラハラする」「腹が立つ」といった言葉にも見られるように、昔からお腹と頭(脳)とはつながっていると感じられてきましたが、実際に脳と腸が関係していて、腸内細菌と脳とのクロストークが全身にも様々な影響を与えていることが近年の研究で証明されています。また、腸内で色々な菌が共生している多様性が崩れると、健康に悪影響を及ぼすということもわかってきました。その意味でも、生物が仲間と共に生きるということの重要性を示唆しています。

このような腸内細菌の多様性を保つことが、免疫力を保つことにも寄与します。そのためには、発酵食品のほか、日本人が昔から大切にしてきた食事をバランスよく食べることが大切です(図)。

もう一つは「動く」ということです。縄文の時代から毎日狩猟生活で走り回っていた先祖の遺伝子を受け継ぐ我々の体は、体を動かすことによってよく機能するようにできています。動くことを支えてきたのは筋肉で、歩いているときは全血流の4分の1から8分の1は筋肉へ流れるといわれています。ですから筋肉を維持して動くことによって血流も良くなり、脳が活性化され、生体のリズムが作られ、全身の血流が良くなれば心臓や肺の機能も良くなります。

4「動き、楽しみ、喜ばせる」の
大切さは変わらない

超高齢社会を幸せに生きるためには「動き、楽しみ、喜ばせる」ということが大切だと提唱してきました。グローバル化社会は今、急速に冷え込んで孤立した状態になっているでしょう。しかし、「孤」というのは最も忌むべきことです。withコロナ時代にあっても、目指す方向は間違っていないと確信しています。これからは、3密回避などの感染対策を守りながら、その中でいかに自分が動き、楽しみ、喜ばせるかを目指しましょう。人を喜ばせるということは、どんな世界でも人間としてのあるべき姿です。隣人を排除するようなことはなくし、互いが助け合うことが、必ずや豊かな世界につながるでしょう。

免疫を保ち、健康を維持するためにも、これからは食、運動、そして心がベースになります。感染対策の原理原則を保ちながらも、いかに楽しむか、心が喜ぶ世界を作るかということを忘れずにいたいものです。差別や分断の世界ではなく、互いが認め合う世界を守っていくためにも、あらゆる領域において「仁」の心(他を慈しみ、他を慮る心)が大事になるでしょう。「医は仁術」といわれてきましたが、孟子が説いた「仁」の心は順天堂の医療の根幹を成すものでもあります。

5互いに見守り助け合うことが大切

医療においては、今後、COVID-19の検査・検疫を含めた予防、診断、治療ができる体制を確立していかなければなりません。高齢者や持病のある人は重症化するリスクもありますから、それに気づくには、周囲の人とお互いが健康を確認しあい、「大丈夫ですか」「お元気ですか」と声をかける見守りが大事になります。防御しながら心はつねに外に向かっていること、つまり、しっかりと他を見る、人を見る、物を見ることです。声が出ているか、表情はどうか、そしてお互いが「おいしいね」などと笑えているか。そんな見方が不安の克服にもつながるでしょう。

古来、仲間を作り、人と人との挨拶から始まり、互いに大丈夫かを確認し合いながら、隣人同士が助け合って構築してきた世界は、withコロナの世界でも変えることなく大切にしていくべきです。互いに感染させないということを気づかいながら、互いに見守り、具合が悪くなった人がいれば助け合う。そんな世界を、子どもや孫の世代まで守り、伝える責務が私たちにはあります。いつまでも人が幸せに生きられる社会を、これからも共につくっていきましょう。